個人のフリーランスの方は、支出に生活費と仕事に必要な部分が混ざることがあります。
仕事に関係があるものは、必要経費として、収入から引くことができます。
生活費部分については引けません。
必要経費について、基礎から考えてみましょう。
ひんぱんに問題になるものですから、全部の事例と取扱いを知ることができないからです。
そこで、基礎的な考え方をもとに、知らないことについても判断できる力を身につけることをおすすめします。

法人化した場合は
フリーランスの仕事を、法人化しても同じです。
法人も、損益計算書上の費用のうち、全部が税金の計算上、引けるわけではありません。
「法人は経費の範囲が個人より広い」と聞いたことがあるかもしれませんが、法人が支出すれば自動的にすべてが経費(法人税法上の損金)になるものでもありません。
社長の個人的な支出に会社のお金を使ったと税務調査で認定されれば、法人の経費にはならず、社長のもうけとして、社長に所得税がかかります。
法人税・所得税・源泉所得税に加え、各種加算税・延滞税までかかったりするのです。本来の1割増し以上の税金を納めることになります。
経費になるものの判断基準を持ちましょう。
法律上の判断基準は
判断基準について、AIに聞いてもいいのですが、AIは法律や通達、裁判・裁決の判断基準を引きうつしてくるだけです。
その言い方は固いし、自分自身が使えるようなものさしにはなりにくいものです。
とはいえ、参考にはなりますので、ちょっと引用してみましょうか。
事業所得の金額の計算上、必要経費が総収入金額から控除されることの趣旨は、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを回避することにあると解されるところ、日常生活において事業による所得の獲得活動のみならず、所得の処分としての私的な消費活動も行っている個人の事業主における事業所得の金額の計算に当たっては、事業上の必要経費と所得の処分である家事費とを明確に区分する必要があり、それらを踏まえて所得税法第37条1項、同法45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項及び所得税法施行令第96条《家事関連費》第1号の各文言に照らせば、所得税法第37条第1項のいう費用とは、単に業務と関連があるというだけではなく、その支出が業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当であり、その判断は、単に業務を行う者の主観的な動機・判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行われなければならないと解される。
平成26年3月6日裁決
これは、売上原価以外の販売費及び一般管理費についての判断基準です。
売上原価については、難しいことはありません。
商品を買ってきた。→資産として手元に残る。
商品を売った。→資産が手元から離れる。この、売ることで無くなってしまった資産について、これを買ったときの金額が、経費(売上原価)になるだけです。
それ以外の費用については、売上原価のように、「売り物がなくなった」という事実をもとにすることができないので、判断力が必要になってくるわけです。
その判断基準、ものさしが、さきほどのような文章なのですから、「これを使えと言われても……」という感じではないでしょうか。
必要経費になるかどうかの考え方の一例
個人のフリーランスであっても、東証プライム市場上場の大企業であっても、やっていることは同じです。
投資と、その回収なのです。
村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』では、ホテル事業の投資と回収について、詳しく述べられている文章があります。
- 土地の買収にかかる金額から、トイレットペーパーの値段・使用量まで、投資額を徹底的に試算する
- 投資に失敗するリスクを下げるため、道路ごとの通行人の数、市内の結婚適齢期の男女の数を調べる
- 投資額が戻ってくる可能性を高めるため、多額の広告宣伝を行う
- それでも予測不能なリスクに備えるため、資本を蓄積しておく
経費とは、投資のことです(その年の経費にならないものは、資産になります)。
投資とは、仕事がうまくいけば、戻ってくる(回収)可能性があるものです。
ということは、経費にならないものとは、仕事がうまくいってもいかなくても、戻ってくる可能性がない、仕事に関係がない支出のことです。
家族との食事代、旅行代、子どもの教育費、医療費といったものが該当します。
もちろん、仕事がうまくいかなければ、戻ってこないのは当たり前です。
では戻ってこなければ経費にならないかというと、そうではなく、自分はともかく、同業者でうまくいっている人は、その支出をしている、といったものが経費になります。
先の裁決事例では、このように述べられていました。
その判断は、単に業務を行う者の主観的な動機・判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行われなければならない
平成26年3月6日裁決
「主観的」、自分が投資だと言い張れば経費になるのではなく、「社会通念に照らして客観的に」判断する。
同業者を意識すると、経費になるものが見えてきます。
同業者がいない仕事や、一般的に経費として例がない支出でも、現に自分に収入があり、その収入との結びつきが説明できる支出であれば、経費と判断できるのではないでしょうか。
回収可能性がある支出かどうか、でまずは考えてみましょう。
近況報告
子どもの学校の土曜参観へ。土曜なので、休息多めの一日。
1日1新:小冊子のリニューアル
1980年生まれ。木村将秀税理士事務所・代表。主にフリーランスやNPO法人のサポートをしている。自分で経理・申告したい/顧問税理士をつけたい/記帳代行を依頼したい に対応。特技はウォーキング(最長は戸塚~小田原間 45km 14時間)、趣味はジャズ喫茶巡り・村上春樹の本・SNK対戦型格闘ゲーム。プロフィール詳細