非営利団体が有償で交付する出版物、収益事業になるもの、ならないもの

私はもともと新聞・雑誌・広告の業界団体(当時は、非営利)に長く勤めていました。

自分でもプリントメディアを作ったりしています。

デジタルの時代になり、NPO法人などもSNS等ネットメディアの発信が主流となる中、なお紙のメディアは作られています。
(会報などは、紙を廃止してPDFにするところも増えていますが。郵便代も高くなりましたから……)

メールやリンク先を開いてもらわなくても、読んでもらえる、共有してもらえる、紙のメリットが生かせる場合もあるからです。

では、非営利団体が、これら紙媒体を、有料で提供した場合、法人税のかかる収益事業となるのでしょうか?

山下公園から見る氷川丸

既存の出版物の販売/自ら企画制作した出版物の販売

団体の主目的に合った、既存の出版物を販売することがあるかもしれません。

これは、収益事業です。物品販売業に該当します。
トーハン・日販・大阪屋みたいな出版取次を公益法人等で行えば、問屋業に該当し、やはり収益事業です。

多くの場合は、セミナー等で利用する教材・パンフレット・リーフレットは、団体自ら制作することが多いでしょう。

これを有償で提供することもあろうかと思います。
これは、出版業として、収益事業に該当します。

ただし、例外があって、会員制の団体で、通常会費を負担している会員にたいして提供する「会報」や「会員名簿」(いずれも書店では販売されない、内部向けのもの)は、収益事業に該当しません。
つまり、会費に法人税はかかりません。

会費の請求書に、消費税法上、対価性がない旨を記載しておけば、消費税もかかりません。
同業者団体(ナントカ協会)からの会費の請求書にコレが書いてあると「できる」と思われる – 税理士 木村将秀のブログ

無料で出版物を配布し、費用を広告収入でまかなう場合は

前にいた業界では、フリーペーパーを発行する会社にもよくお邪魔していました。

ちなみに、私もフリーマガジンを出しています。→ 無料小冊子 『横浜ではたらくフリーランスの守りの種』

私が25歳くらいのとき、『R25』というフリーマガジンが流行っていました。懐かしいです。
電車の中で暇なときに、スマホがなかったので、当時は車内で読者をよく見かけたものです。

そういった紙媒体に、広告を掲載することもあるでしょう。

出版物を無料で配るだけなら、収益事業ではありませんが、広告収入を得ている場合は、こちらも出版業として収益事業となります。

出版記念セミナーを有料で開催した場合は

限定列挙されている技芸教授業(書道、華道、茶道など伝統的なものなど)や学習塾・模擬試験を、公益法人等が主体で運営しても、収益事業となり、法人税がかかります。(消費税も)

収益事業となるのは、以下の教授等が該当します。

  • 洋裁
  • 和裁
  • 着物着付け
  • 編物
  • 手芸
  • 料理
  • 理容
  • 美容
  • 茶道
  • 生花
  • 演劇
  • 演芸
  • 舞踊
  • 舞踏
  • 音楽
  • 絵画
  • 書道
  • 写真
  • 工芸
  • デザイン(レタリングを含む。)
  • 自動車操縦
  • 小型船舶の操縦
  • 学力試験に備えるため若しくは学校教育の補習のための学力
  • 公開模擬学力試験を行う事業

しかし、その限定列挙に該当しない内容のセミナーや講習会については、収益事業になりません。

技芸教授でないセミナーを開催しているNPO法人等は、多いものと思われます。

ただ、先ほども書いたように、自ら制作した出版物の販売は、収益事業であり、この出版物のプロモーションも兼ねた有料セミナーは、内容が上記の技芸教授に該当しなくても、収益事業である出版業の一部として、法人税がかかります。

このように収益事業は、原則と例外が入り組んでいて、判断が難しいところがあります。

最初が肝心なので、収益事業に該当しそうな出版関係の事業を始めるときは、事前に税理士に相談する機会を持ったほうがよいでしょう。
(開始してから税務署に「こういうことをやっています」と相談すると、撤回はできませんので……)

近況報告

NPO法人からのメールの質問に回答。
別件で、NPO法人の無料相談会(県が委託している事業)の会計・税務の相談員の仕事が決まりました。
その他、個人の記帳代行、法人の会計データの修正など。

1日1新:第六世代税理士用電子証明書の発行手続き