たまに見かける節税情報で、「中小企業(法人)は交際費800万円までの上限があるけれど、個人は上限がないから、個人のほうがトク!」というものがあります。
そういう情報を出している人の話は、あてにしないほうがよいです。
確かに、法人には、経費になる交際費を800万円までとするルールがあります。(租税特別措置法第六十一条の四)
確かに、個人には、そういうルールはありません。
じゃあ、個人で交際費を1000万円くらいかけて、問題にならないかというと……「それ、本当に仕事に関係ありますか?」という疑いを招くのではないでしょうか。
プライベートな支出を交際費にまぜていたら、上限以前の問題で、経費になりません。
確定申告で障害者控除が使えるかどうか
ルール(法律の条文)に書いてあるかどうかで判断される方は、じゃあ、次のようなケースはどのように判断するのでしょうか。
設例
12月に医師の診断書に基づき、障害者手帳の交付申請をした。確定申告をする翌年3月現在、まだ手帳が届いていない。私は障害者控除を受けられるか?
条文
第七十九条 居住者が障害者である場合には、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から二十七万円(その者が特別障害者である場合には、四十万円)を控除する。
第二条 二十八 障害者 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者、失明者その他の精神又は身体に障害がある者で政令で定めるものをいう。
第十条 法第二条第一項第二十八号(障害者の意義)に規定する政令で定める者は、次に掲げる者とする。…
所得税法、所得税法施行令(第十条)
二 …精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者
三 身体障害者福祉法(…)第十五条第四項(身体障害者手帳の交付)の規定により交付を受けた身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されている者
ルールの内容で判断するとダメそうだが、実際にはOK
<障害者は、「手帳の交付を受けている者」「交付を受けた手帳に障害者と記載されている者」のことだから、まだ手帳の交付を受けていない人は、障害者ではないので、障害者控除は受けられない。> もちろん、これは誤りです。
この設例では、障害者控除が受けられます。
税金は実質にかかるが、条文には形式しか書けない
所得税法施行令が手帳の有無を書いているのは、障害者かどうか、第三者が判断するための要素として、手帳のことしか書けないからです。
本人でも医者でもない第三者(税務署)にも、障害者控除が受けられるかどうか判断できるように、法律は書かれています。なので、障害者である実質を判断するために、手帳の交付という形式的要件を付しているのです。
法令には、そのようにしか書けません。
でも、本人は、日常生活に不便があり、医師の診断もあるのですから、自分が障害者であることをわかっています。
だから、所得税法は、「居住者が障害者である場合には、…二十七万円(…)を控除する。」と書いてあるのです。
「障害者である場合には」OKというのが、法律です。
ちなみに、所得税では、個人の状況に応じて受けられる所得控除については、原則「年末時点」にその状況かどうかで判断します。
今回の設例では、12月中に診断書があり、手帳の交付申請をしているのですから、手帳以外の客観的証拠で、障害者であることが自分自身でも、第三者でも年末時点で判定できる状況です。
なので、障害者控除が受けられるのです。
条文を杓子定規に運用しないために通達がある
(障害者として取り扱うことができる者)
2-38 身体障害者手帳の交付を受けていない者…であっても、次に掲げる要件のいずれにも該当する者は、令第10条第1項第3号又は第4号《障害者及び特別障害者の範囲》に掲げる者に該当するものとして差し支えない。…
(1) その年分の…確定申告書…を提出する時において、これらの手帳の交付を申請中であること、又はこれらの手帳の交付を受けるための身体障害者福祉法第15条第1項《身体障害者手帳》…に規定する医師の診断書を有していること。
(2) その年12月31日その他障害者であるかどうかを判定すべき時の現況において、明らかにこれらの手帳に記載され、又はその交付を受けられる程度の障害があると認められる者であること。
所得税基本通達
障害者控除は、税金を納める力が障害の分、低下しているので、税金を減らすはたらきをします。
困っている人を助けるためのルールなのです。
なので、現実に障害で困っているのに、形式的に手帳を持っていないからといって、切り捨てたりはしません。
そんなことを法律に書き込むと、長く読みにくくなりますので、書いていないだけです。その柔軟な運用について、条文だけではわからないので、通達で補足しているのです。
で、長い話でしたが、税金の考え方で覚えておいてほしいのは、2つ。
- 人に関する控除の可否ついては、年末時点にどうかという点(なお、死亡の場合は、死亡時点でどうか)で判断する
- 税金は、実質に課税する(あるいは課税しない)
この2つを覚えておけば、別に、この通達を知らなくても、「手帳がないからといって、控除を受けさせないということはないよな」というとっさの判断が、税理士にはできるのです。(最終的にはルールで確認しますが)
ルールは知っているけれど、実際のところどうなのか? そういったご相談も、税理士事務所ホームぺージでお受けしています。
今日の仕事
- 新規の個人のお客様の確定申告書の作成