「この経費を、何の勘定科目で入れたらいいか」と、たまに聞かれます。
これは、他人に説明するときのことをイメージして、納得を得やすい名前の勘定科目を選べばいいのです。
と言われても、とお思いでしょう。
そこで、フリーランス・個人事業主という立場からは一歩引いて、説明する相手、自分のイマジナリー(想像上の)株主(金主、所有者、雇い主)の視点で考えてみましょう。
損益の科目は、純資産増加の内訳を説明したもの
いま持っている自分のお金は、自分でない空想上の誰か(イマジナリー株主)が、ぽっと出してくれたものだとします。
株主は、お金をあなた(社長)に託して、増やしてもらいたいと思っているので、1年後に成果を聞きに来ます。
株主「この間渡したお金、どのくらい増えたのか?」
この質問に答えるために、別に損益計算書は必要ないのです。
1月1日の通帳の残高と、12月31日の通帳の残高とを見せて、「はい、このとおり増えました。この差額がもうけです」と言えばいいだけ。
まあこの例だと、社長=株主ですから、株主はそれで納得して、終わりです。
でも、ふつうの会社を考えると、株主って別人です。社長のことを100%信じているわけではない。
株主「×××円増えたっていうけど、それって本当? 収入と、そこから何に使ったのか、見せてよ」と聞かれてしまいます。
そこで、支払った内容別に分けた経費の一覧表をつくって、株主に説明するわけです。ここでやっと経費の勘定科目名が必要になります。
この経費の一覧表をもとに、まず株主のチェックを受けるわけです。
株主はあなたの事業に関心があるので、納得度の低い勘定科目を見ると「あれ?」と思う
- 株主「モノを売ってるんだから、仕入れはあるよな……。あれ? でも在庫(期末商品棚卸高)がないな?」
- 株主「こないだチラシが入っていたの見たけど、広告宣伝費が0だな?」
- 株主「接待交際費があるけど、接待する相手っている? 自分が食べただけじゃないの?」
- 株主「カウンターの向こうに設備が見えるけど、減価償却費なくていいの?」
- 株主「人を雇ってないのに、福利厚生費があるの変だな?」
- 株主「出資以外に、借入もしてたはずだけど、利子割引料がないぞ?」
- 株主「去年の地代家賃と比べて、今年の地代家賃が2倍になってるぞ? 同じになるはずでは?」
- 株主「雑費が仕入金額並みにあるのって変じゃない?」
- 株主「売掛金が増えているのに、貸倒引当金が増えてないなあ」
などなど……経費の一覧表があれば、このように「あれ?」と思う点が見つかるものです。
特に、株主はあなたの事業(お店)に関心があるので、見た目と、経費の数値が一致していないと気になります。
反対に、この自分の見た目の印象と合うように、勘定科目を選べば納得感は高まることになります。
- 株主「この間、新商品が出ていたから、調査研究費があるな。なるほど」
といったふうに。
研究開発費のさらに内訳を見られて、購入先が飲食店だと、「自分の生活費では?」と疑われがちです。
でも、自分も飲食店や食品の製造販売業なら、「同業者を研究し、この新商品開発に取り組んだ」と客観的資料(成果物または失敗物)で説明できれば、調査研究費でいいわけです。
※「研究したことにした」はNGです!!
チェックをする側の心証がよくなるような、経費の勘定科目選びをしてみましょう。
勘定科目の選び間違いは、それほど気にしなくて大丈夫
いちおう、税務署公式の勘定科目ガイドは、次のようなものがあります。
- 帳簿の記帳のしかた (nta.go.jp) の29ページ
- 青色申告の決算の手引き (nta.go.jp) の3ページ前後
これを見ると、いわゆる同業者団体の会費は「租税公課」とされていますね。簿記の教科書でもだいたいそうなっています。
でも、経費になる税金だけ把握したいために、租税公課から会費を除いたってOKです。
また、単純な入力ミスで、内容と合っていない勘定科目にしてしまっても、それが問題になることは、通常ありません。
それで税金の金額が変わるわけではないからです。
大きな金額の科目を間違えて、去年とバランスが大きく崩れていると気になるかもしれませんが、結果的に税金が変わらなければおとがめなしです。
また、「決算の手引き」の中に、デフォルトの勘定科目にない「研修費用」や「寄附金」といったものも出てきます。
仕事のために、どうしても必要なものがあれば、損益計算書の空欄に自分用のカスタマイズ勘定科目を入れてもよいです。
あと、消費税を一般課税で納税しているような場合だと、一科目一課税区分を設定すると、Excelを使った経理がやりやすくなります。
例えば、「接待交際費」は軽減税率8%、これと別に飲食費をつくって10%にする。損益計算書上はその二つを合計して「接待交際費で表示する」ということもありです。
- 他人が見たときに納得感があるか(自分以外に株主がいなくても、銀行・税務署という第三者が見ることも)
- 自分が経理をするときに楽か
- 多少の勘定科目の間違いは気にしない
という視点で、勘定科目に向き合ってみていただければと思います。
昨日の横浜南税法研究会
路線価図がどのようにつくられているのか、実際につくったことがある国税OBの先生から教わりました。面白かったです!