就労継続支援B型の工賃は課税仕入れになるか

障害者に払うB型工賃が、課税仕入れになるかどうか。

地裁・高裁(令和7年1月30日)の判決では、課税仕入れにならない、という結論でした。

この裁判の当事者は、大規模な社会福祉法人でしたが、就労継続支援B型事業を行う事業者の方には、気になるお話です。

だいぶ前に作業所の印鑑ケースを買った。付箋やUSBメモリ入れにしている

生産活動の収入が課税売上になる理由

社会福祉法人の行う事業であっても、生産活動に関するものは、課税売上となり、消費税がかかります。

社会福祉事業の収入は、消費税は原則、非課税とされています(個々の判断は難しいところになります)。

が、そうだとすると、障害者の仕事の成果を購入する企業側では非課税仕入れとなり、企業側の消費税を減らす効果が生じません。

すると、社会福祉法人などが企業間取引から排除されてしまいます。
そこで、例外的に、生産活動を課税売上の対象としているのです。

インボイス制度の問題(登録していないと取引から排除される?)と似た問題を解決するための特別ルールという位置づけになります。

就労継続支援A型とB型の違い

生産活動の収入の反対側では、社会福祉法人などの払う経費と、就労継続支援A型の賃金、B型の工賃という支払があります。

A型の賃金については、そもそも利用者との間に雇用契約があります。
雇用契約にもとづく給与の支払いは、課税仕入れになりません。

勘定科目別に税区分を確認してみて、給与手当が課税仕入れになっていたら、原則、誤りです(通勤手当を給与手当勘定に含めている場合を除く)。

B型については、利用者との間との間に雇用契約がありません。
このため、課税仕入れになる/ならないという争いになったのだと思われます。

今回の裁判の事実を確認すると、以下のとおりでした。この事実をどう評価するかという事実認定の問題です。

  • 平成26年3月期~29年3月期
  • 社会福祉法人が
  • 希望する利用者に
  • 生産活動の場を提供し、工賃を支払った
  • 工賃の額は、生産活動の収入-経費(法律上、利益が0円になるような金額)

課税仕入れに必要な「対価性」はどう判断する?

論点は、B型工賃に対価性があるかどうかです。
これは特別ルールではなく、原則の話です。

税金は、その前の前提となる法律があって、このケースでは障害者総合支援法です。
裁判では、B型の工賃が総合支援法上、どのように位置付けられていたかが重視されていました。

工賃の額は、法律上、収入から経費を引いた残りの金額です。

  • 収入
  • 経費
  • 残り=工賃

とすると、工賃は、仕組み上、経費ではない、ということが言えます。
判決文では、工賃は、残り=剰余金の分配(株の配当のようなもの)と評価され、対価性がないとして、消費税については課税の対象外と判断されました。

消費税の課税仕入れになるかどうかは、その支払いの対価性の有無が重要になります。

支払いの対価性とは何か?
ごくシンプルに言えば、2倍してもらえば、2倍払う必要があるものは、対価性ありといえます。

今回のケースでは、法人内部で、作業時間や能力に応じて利用者ごとの分配額を決めていたといいます。
しかし、大本が法律上、対価性のない剰余金の分配なので、NGという結論の裁判でした。

法律の建付上、法人は、常に工賃を経費に含めずに黒字になるような事業を行い、結果としての黒字を工賃として分配することとなっています。

利用者間の工賃の分配のことを抜きにして、ケースを単純化し、利用者が1人だと考えてみましょう。
すると、利用者が仕事を2倍しても工賃が2倍になるわけではありません。
工賃は、収入-経費で先に決まっているからです。
したがって、対価性はないと判断できます。

なお、高裁では、利用者は、社会福祉法人に役務を提供しているのではなくて、生産活動の場の提供その他の便宜(工賃を含むと思われる)を受けているという、逆の立場であることが明確にされました。

係争中ではありますが、就労継続支援事業B型の工賃の支払いを、課税仕入れにしていると、現状、リスクのある処理になります。
課税事業者である法人は、決算申告の前に、経費の消費税の課税区分を必ずチェックしましょう。

編集後記

今日は読書したり、Dr.STONEやジークアクスを観たりして過ごす。

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