日商簿記初級に出てこない、事業主貸・事業主借・元入金とは?

昔は、簿記といえばまず3級から、個人事業主の複式簿記を学んだものですが、いま(2017年以降)日商簿記3級は、会社・法人の簿記になっています。

その下の日商簿記「初級」が、個人事業主の簿記です。

なので、フリーランスの方は、ちゃんと「日商簿記初級」で基礎を学んでから、会計ソフトに触るのがおすすめです。

税理士に習いながら、会計ソフトを入力するのも手ですが。

今日の1日1新。20分あればできる

日商簿記初級に出てこないのに、会計ソフトにある科目

ただ、日商簿記初級に出てこないのに、会計ソフトにしれっと存在する勘定科目があります。

学習簿記・受験簿記と、会計ソフトとの間には、なぜか大きな溝があるため、日商簿記から入った人は戸惑うと思います。

それが、事業主貸(資産)、事業主借(負債)、元入金(資本)です。

日商簿記初級では、これらはすべて「資本金」という勘定科目を使います。(個人事業主であっても)

なんでこうなっているか。

これは、青色申告決算書の勘定科目に、「資本金」がなく、代わりに事業主貸、事業主借、元入金という勘定科目を使っているから。

個人向けの会計ソフトは、その作成すべきゴールである青色申告決算書(貸借対照表)に合わせて作られているからなのです。

青色申告決算書には、1月1日時点と、12月31日時点の資産・負債・資本の残高を載せるという特徴があり、そのうち資本である元入金は、その両日で同額を入れるという決まりがあるため、3つの科目に分かれています。

確定申告書等作成コーナーの貸借対照表の期首を正しく入力する – 税理士 木村将秀のブログ

事業主貸とは何で、何に使うのか

日商簿記初級でいうところの、借方:資本金(事業から家計にお金を引き出す) のことを、青色申告では事業主貸といいます。

借方(左)に事業主貸が来るということは、残りの貸方(右)には、だいたい、現金や普通預金(資産の減少)が入ります。

借方)事業主貸 貸方)普通預金 1,000 つまり、お金が減ったということです。

お金が減ったら、通常は経費で、所得が減り、税金も減るという関係にありますが、ぜんぶのお金の減少がそうではありません。

事業所得(不動産所得)が減らないお金の減少に、事業主貸を使います。事業所得等が減らないお金の減少とは、次の4つです。(借入金や買掛金等の支払いを除く)

  • 生活費(家事費)
  • 所得税、住民税
  • 延滞税、罰金
  • 所得控除の対象となる、医療費、小規模企業共済等掛金、社会保険料など

事業用の財布から、家計用の財布にお金が移ったこと、事業用のお金から生活費を引き出した、というのが本来の事業主貸です。

そのほか、それを経費にして税金が減ったらおかしいだろう、というものも、事業主貸になります。

所得税や住民税は所得にかかるものなのに、税金を払ったら所得が減って、来年の税金が減るのはなんだか変です。

また、罰金なども、罰金が経費になって税金が減ったら、その分、差引で罰金も減ったことになってしまいます。

第一表で「所得から差し引かれる金額」になるものも、これを経費にすると、二重に所得がマイナスされてしまうことになります。

ということでこの4つには、税金の減らない支出原因として、事業主貸を使います。

資産グループに属していますが、これは、経費グループにしないために、同じ「増えたら左」の資産グループにしているだけ、と考えていただければ。

決算が終わったら、翌期首に資本グループの元入金に吸収されます。実質は、資本グループです。

報酬から源泉徴収された税額も、事業主貸(補助科目・タグ:源泉所得税)にまとめておけば、翌期首には自動的に残高が0に戻る(相手科目の元入金をマイナス)ので、楽になります。

使いどころの多い事業主借

一方、事業主借は、日商簿記初級でいうと、貸方:資本金。追加の元入れと呼んでいました。

すると反対側の借方は現金や普通預金。お金が増えているわけです。

で、事業主借はなぜか負債グループに入っています。

家計からお金を借りて、事業に使った。

とはいえ、家計も事業も同一人物なのですから、負債なのに返す必要、ありません。

なので、これも実質は資本グループ。翌期首に元入金に吸収されるのも、事業主貸と同じです。

この使い道は、事業用と指定していない、プライベートの現金、預金口座、クレジットカード、交通系IC、PayPayで払った経費、これらすべての貸方科目(相手科目)として使えます。

借)支払手数料 貸)事業主借 1,100 は、家計から、事業の経費を支払ったという意味の仕訳になります。

事業用の財布や金庫で現金を管理するより、また、プライベートの銀行口座などを会計ソフトに連携させるより、便利です。

事業用の財布や金庫を持つ目的は、その実際の紙幣・コインの枚数を数えた数により、会計ソフトの現金残高が正しいことを確認できることにありました。

その効果は、現金払いの抜け・もれ・会計ソフトへの金額入力間違いを防ぐ意味がありました。残高管理ができたということです。

でも、例えば、プライベートの交通系IC(SUICA、PASMO等)やカードを使っても、残高はデータで管理できます。

明細を見ても「物販」とか、店名だけで、詳しくは分からないにせよ、抜け・もれがないこと自体は確認できます。

なので、別に、いまどき事業用の現金管理はいらないのです。残高管理をしなくても、ミスは発見できるので。

(店舗でレジ現金があったり、従業員が何人もいるとかだと違いますが)

その明細データの中から、経費になるものだけ選んで、データをExcelに加工してインポートしてしまえば、手間はAPI連携とそれほど変わりません。

事業主貸・事業主借を活用して、経理をシンプルにしてしまいましょう。

編集後記

1日1新:KEY’S CAFE 横浜蒔田店。下町の談話室という雰囲気で、良い感じでした。私も横浜市南区在住期間が長かったので、結構好きです。