村上春樹『1Q84』の面白い点は、あたまからしっぽまで異常な話なのに、ラストだけふつうの話であること、です。
人が亡くなるということの厳粛さを感じられます。
一方、カルト教団側の人死にのあまりの雑さに、唖然とします。この対比が鮮やかです。
村上作品では、しばしば人が亡くなりますが、亡くなる前の前触れ、亡くなったあとの事務処理、生きている間に人は何を集めているのか、その様子が淡々と書き綴られているのは、これが唯一であると思います。
そこまでの異常な話があって、このふつうの話が入ってくるところで、急に静けさが訪れるところもいいです。
村上さんの実父をみとった経験が生きているんだろうなと推測します。
好きになれなかった父親も、父親であったというあたりまえのことに気づかされる、その描写が見どころです。未読の方は、そこにたどりつくのを楽しみにしていていただければと思います。
マイ・ベスト・春樹長編です。