簿記を勉強すると、なんでこんなにいろんな処理をしなければならないのだろう、と疑問に思ったことはありませんか?
小説・成瀬シリーズ最新作、『成瀬は都を駆け抜ける』では、成瀬たちが日商簿記2級を受験します。
登場する簿記YouTuberは、スパチャのことを「売掛金が増えた」と表現します。
この表現は合っています。
スパチャにより、お金をもらう権利が発生したので、入金される前に、売上を増やす必要があり、その権利の金額として、借方:売掛金 とするからです。
これも、適切な利益を計算するためのひとつのテクニックです。
入金時に売上を計上するのは、お金とサービスを同時に交換したときだけの例外的な処理だからです。
簿記には、月次決算で適切な利益を計算するためのテクニックがあるため、紹介します。

減価償却 払ったお金を後から費用にする
減価償却費は、毎月計上するようにしましょう。
会計ソフトの設定を見れば、月次で計上するためのオプションがあるはずです。
推移表で見たときに、期末月だけに減価償却費が計上されている、または、まったくされていないのであれば、設定を変更しましょう。
なぜ、徐々に費用化するという、減価償却が必要なのでしょうか。
大昔は、減価償却はなく、備品の代金を払ったときに、払った金額を費用にしていました。
しかし、産業革命以後、多額の設備(機関車など)が登場しはじめます。
機関車の代金を払った月に、その全額を費用にしてしまうと、その事業年度だけ大赤字となります。
反対に、その翌年度から、その設備が支出なしに稼いでくれるため、大黒字になってしまいます。
利益が変動しやすくなってしまったのです。
さらに、設備投資の資金需要にこたえ、銀行業も発展してきました。
そこで、昔ながらに支出のタイミングで費用にしていると、年度によって大赤字になったり大黒字になったりする決算書では、銀行は、貸していいか悪いかの判断ができなくなってしまいます。
そこで、払った金額を、法定耐用年数にわたって費用にしていく、という計算方法が編み出されました。
設備は、年々老朽化して価値が下がるので、実態にも合っています。
それが、減価償却(価値が下がる、という意味)です。
この結果、会社の損益計算書上の利益は、ブレが少なくなったのです。
利益の平準化といいます。
つまり、減価償却によって、会社はコンスタントに利益を出しやすくなった、ということです。
これは、利益に税金をかけたい国の立場にとっても都合がよく、税金の計算上も費用として認められることとなりました。
引当金 払う前のお金を先に費用にする
賞与を払う予定のある会社は、賞与引当金を毎月計上することをおすすめしています。
そうしないと、賞与を払った月だけ赤字になってしまうからです。
期末に賞与を払うこととしていた場合は、これまで黒字だったのがいきなり赤字転落することもありえます。
さらに、賞与には社会保険料(会社負担分)もかかるので、払った金額以上に費用が増大しがちです。
この賞与とその社会保険料の金額は、前もってある程度分かる場合もあるでしょう。
半年ごとに賞与を支給する場合は、支給額を6で割って、 賞与/賞与引当金 として毎月計上します。
そして、賞与を払った月に、次のように処理します。
賞与引当金/賞与 (賞与引当金の残高を0にする金額)
賞与/普通預金など (実際の総支給額)
賞与/賞与引当金 (次に支給する賞与を6で割った金額)
賞与にかかる社会保険料については、
各人の賞与支給予定額(千円未満切捨て)×介護保険料の有無で変わる健康保険料率(折半)
各人の賞与支給予定額(千円未満切捨て)×厚生年金保険料率(折半)
各人の賞与支給予定額(千円未満切捨て)×子ども・子育て拠出金の料率(全額会社負担)
を積み重ねると求まります。
これを6で割って、法定福利費/賞与引当金として計上します。
実際に賞与を払った月に、次のように処理します。
賞与引当金/法定福利費 (社保分の引当金の残高を0にする金額)
法定福利費/未払費用 (実際の賞与支給額に基づく確定額)
法定福利費/賞与引当金 (次に支給する賞与に基づく社会保険料の見込み額)
このようにすることで、賞与を払う金額が月に均されて計上されるので、利益の見通しが立ちやすくなります。
ただし、このように、払う前のお金を費用にすることは、税金を集める立場からすると、あまり認めたくありません。
そこで、賞与引当金については、税金の計算上は、費用として引けないことになっています。
(確定額の法定福利費については、未払費用として費用になります)
消費税 税込経理を税抜利益に直す
消費税は、税込経理の場合は、利益に含まれてしまっていますので、月次決算で、 租税公課/未払消費税等 として、一定の金額を費用として先に取り込んでおくのがおすすめです。
これも、消費税の申告書を作ったタイミングで費用にすると、黒字のつもりが赤字になったりするからです。
税込経理・簡易課税の場合は、 消費税の納税のために、いくら貯金すればいいか?(税込経理・簡易課税編) | 木村将秀税理士事務所 を参考に。
税込経理・一般課税の場合は、税込経理で一般課税(原則課税)、月次決算で消費税の納税予測はどうするか – 税理士 木村将秀のブログ を参考にしていただければ。
未払消費税の額が、そのまま、将来の納税予定額になりますので、この分の貯金をしておきましょう。
受取利息が源泉徴収されない、納税準備預金の利用も一考です(納税時しか引出しできないことに留意)。
税抜経理・一般課税の場合は、消費税の納税予定額は、もともと利益の計算から除かれているので、これらの処理はしなくてよいです。
ただ、資金繰り上、現時点での仮受消費税等-仮払消費税等 の金額が、将来の納税額であることは知っておきたいものです。
これを把握していないと、消費税の滞納につながってしまうからです。
利益を平準化すれば、決算・申告のタイミングではなく、いまの時点でもうかっているのかどうか知ることができます。
また、銀行に試算表を提出する際も、印象がよくなります。
できそうな簿記テクニックから、取り入れてみましょう。
近況報告
町内会で、自宅の周辺と、日限山大公園の掃除を。
夕方は、子どもたちといっしょにQuizKnockの500耐を少し見るなど。
1日1新:正直不動産 22巻
1980年生まれ。木村将秀税理士事務所・代表。主にフリーランスやNPO法人のサポートをしている。自分で経理・申告したい/顧問税理士をつけたい/記帳代行を依頼したい に対応。特技はウォーキング(最長は戸塚~小田原間 45km 14時間)、趣味はジャズ喫茶巡り・村上春樹の本・SNK対戦型格闘ゲーム。プロフィール詳細