私は、小説といえばほぼ、村上春樹作品と、彼の翻訳作品しか読みません。
それだけでかなりの分量になるので、限られた時間ではそれでせいいっぱいなのが実情です。
他にも、マンガを読んだり映画を見たりしないといけないですし……。
村上春樹作品を読んでいると気づくのは、その登場人物の多くが、フリーランスであるということです。
現在、文芸誌の『新潮』で連載中の「夏帆」シリーズの主人公も、フリーランスのイラストレーター・絵本作家です。
(現在、3作目『夏帆とシロアリの女王』掲載号が発売中です。なんか、「アナと雪の女王」みたいなタイトルですが)
そして、税理士がひんぱんに登場することにも気づきます。
村上春樹、フリーランス、税理士の三題噺を書いてみようかと思います。

フリーランス
そもそも村上春樹さん自体、大学在学中に結婚し、就職せずに夫婦で飲食店を開業した方です。
調理師免許を持ち、多店舗経営までしていました。
「夏帆」シリーズに登場する主人公の父方の叔父も、飲食店経営です。
『ダンス・ダンス・ダンス』の主人公も、「フリーランス」、「フリーのライター」であると作中に書かれています。
主人公の友人になる五反田君も、売れっ子俳優ですからフリーランス、なんと税理士もついており、二人で税理士の話をしたりします。
「税理士にももっと経費を使えと言われてるんだ」というセリフまであって……。
フリーランスの最大の特徴は、時間の自由さであり、だからこそ、小説の主人公には向いているのでしょう。
冒険もしていいし、井戸の底にこもっていてもいいのです。
フリーランスの方は、この時間の自由さが得られているか、振り返っておきたいものです。
税理士
村上春樹さん自体、税理士に感謝する旨の文章を「村上朝日堂CD-R スメルジャコフ対織田信長家臣団」に寄せています。
冗談で「趣味まみれ」な税理士の理想像を連ねつつ、本当にそんな人がいても依頼しないかも、と書かれていました。
『国境の西、太陽の南』にも、主人公の経営するバーに税理士が毎月来て、帳簿をつけ、経営成績に感心する描写まであります。
私は税理士なので、個人的に、小説に税理士が出てくると、楽しくなります。
投下資本の回収
『ダンス・ダンス・ダンス』では、買収されたドルフィン・ホテルが、ビッグビジネスとして投資とその回収を行う描写に紙幅が割かれていました。
村上春樹の小説には、何度か「投資(投下資本の略)と回収」という表現が出てきます。
経営者だった経験から来るのかなあ……と思いますが。
総収入金額や売上高、必要経費や費用・損失などというと、なんだか抽象的な用語だと感じます。
端的に言って、売上とは「回収」であり、必要経費とは「投資」なのだと思います。
貸借対照表の資産の部に載っているのは、投資のうち、今年度の費用になっていないものです。
ホテルビジネスに限らず、フリーランス(個人も法人も)であっても、やっていることは同じです。投下資本の回収です。
投資と、その投資額を上回る回収を目指すことです。
「〇〇は経費になるか?」と疑問を持つよりも、「〇〇は投資だ。うまくいけば、この金額より大きな回収が見込める」と主張できることが、経費を出すか出さないかの判断基準になるでしょう。
いるかホテルが投資するかどうかの判断にあたって、さまざまなことをしている様子の描写を読んで、「はたして自分はここまでやっているか? この支出は投資になっているか?」と思わされました。
村上春樹の小説を読んで、フリーランスの魅力と困難さ、一般企業と同じところ・違うところを探してみるのも、読書の秋の一興です。
フリーランスの方に、『ダンス・ダンス・ダンス』(講談社文庫、上下巻)、おすすめです。
近況報告
午前中に仕事上のメールのやりとりをし、大学生からの講義へのコメントや質問を読み、昼から戸塚のさくらプラザで合唱練習、午後は村上春樹の新作を読む。
今回作中に出てくる文学作品は、『高慢と偏見』の1冊ものの文庫版。ということは、中公文庫版なんでしょうね(翻訳の文体が固めの)。
夕方は、スタバでブログを書いて、夜は TINK ARCADE 横浜の #ヨコハマ5サム会 に。
1日1新:村上春樹「夏帆とシロアリの女王」

1980年生まれ。木村将秀税理士事務所・代表。主にフリーランスやNPO法人のサポートをしている。自分で経理・申告したい/顧問税理士をつけたい/記帳代行を依頼したい に対応。特技はウォーキング(最長は戸塚~小田原間 45km 14時間)、趣味はジャズ喫茶巡り・村上春樹の本・SNK対戦型格闘ゲーム。プロフィール詳細