所得税を複雑にしているのは「所得制限」

昔はこんなではなかった。と、最近の所得税について言えるのは「所得制限」のやたらに多いことではないでしょうか。

いちいち表で上と左の金額をクロスさせて、金額を求めなければいけない。

確定申告の手引きも、年末調整の書類も、こんなのばっかりです。なぜ、所得制限が必要なのでしょうか?

私は、超過累進税率の最高税率を上げずに、高所得者の負担を税増やすためと考えます。

税率を上げると、国際比較で日本の所得税が高く見え、日本で働く人が減ってしまうのを危惧して、ソトヅラをよくするため、というのが真の目的だと考えています。

外面のために、現場の事務担当者に負担を強いているわけです。こんなの、最高税率を上げて、所得制限をすべてなくせばいいだけの話です。

事務負担を増やすと、法人税が減るけどいいのか?

…アメリカ百貨店連盟は、1919年に国税庁に対する嘆願書の中で「各品目ごとに原価または時価で評価することは多大な事務上の費用を要し、かかる増加費用が申告所得から差し引かれ、課税所得の減少をもたらすとして売価を用いる棚卸法を公認すべき」と訴えています。

『3つのステップを完全マスター 実地棚卸なるほどQ&A』株式会社エイジス[監修]、近江玄著(中央経済社、2022)より

棚卸資産の評価方法として、「売価還元法」が税務上の評価方法として認められた経緯について、このように説明されています。

日本でも、アメリカの例を参考に、売価還元法が認められています。

税金計算のための手間=コストがかかればかかるほど、会社の利益はどんどん減って、法人税が減るけどいいの? とアメリカの小売業の訴えは、国税へのアプローチとして、ナイスですね。

原則的な税務のルールにしたがうと大変すぎるので、結果が大きく変わらなければ、手間のかからない方法を認めてほしい。今後の税制改正は、すべてこのような方向になってほしいです。

事務負担に配慮した税制を

残業代で所得税が増えるからいいのでしょうか。ちゃんと残業代が出ていなかったら、税収が減りそうですが。

それどころか、税金を計算する自治体や、国税庁にも新たな仕事が発生し、税金の使い道も増えてしまいます。

複雑な税制は、もはや国家への攻撃という気すらします。日本の財務省は、本当にそれをよしとしているのでしょうか。

定額減税。増税していると言われたくない、という個人的な理由で、また多大な事務負担を強いる制度が導入されます。

これも所得制限付き。個人の体面のために、なぜ徴税・納税の両現場が犠牲にならなければならないのでしょうか。

新たな事務負担を創設する税制を考えた人は、自分もその事務をやってほしいですね。

高額所得者へのやっかみを背景に導入されがちな所得制限

国会での税制や助成金の議論でも、すぐに所得制限の話が出てくるのが、いやな感じです。

高額所得者には、税メリットも助成金も与えない+税率も高い。ダブルパンチです。高額所得者に、場面場面でいやな気持ちを与える。「ああ、これ自分もらえないのか……」と。

高額所得者へのやっかみがあるから所得制限への賛成は多くなるけれど、その結果、時間が失われるのはやっかむ側です。所得制限に気づかない事務ミスが誘発されるでしょう。

誰でも平等に税金や助成金が適用されて、超過累進税率の上乗せだけで高額所得者に負担してもらう。それなら、いやな気持ちになる場面を減らせます。もちろん、現場の手間も減る。そういう、シンプルな仕組みにならないものでしょうか。