私は昔、税務調査ではない調査の仕事をしていたのですが、そこで最初に叩き込まれたのは、自分なりに理解すると「ふつうを知りなさい」ということでした。
新聞報道に出るくらいの一般論として、世の中ではさまざまな調査が行われていますが、やはり、調査を受ける側は、問題が見つからないように嘘をついたり、架空の資料を提示することが、よくあるようです。
調査をする側は、それが嘘であることを証明できないと、仕事にならないわけです。
税務調査も同様です。
ふつうの税務調査を知る
ふつうの税務調査では、1日目の午前中に調査官と社長とが雑談をします。
定番の話題は、「社名の由来は?」で、これは、ものの本によれば、調査官が税務署に帰還すると、上席から質問されがちだからだそうです。
そこで出た話題をきっかけに、調査の方向性が決まったりもしますが、基本、聞かれた点に焦点をしぼって答えればよいです。
沈黙をおそれて、しゃべり続ける必要もありません。
1日目の午後には、社長も仕事があるでしょうから、いつでも電話に出られるようにして、仕事に戻っていただいてもいいのです。
1日目の終りには、調査官が資料を持ち帰る場合は預かり証を渡されますし、いまだとUSBメモリにデータをコピーされることもあるようです。
2日目には、ある程度問題点も見つかり、事実を帳簿に正しく反映していない点について、修正申告を求められたり、今後の改善を求められたりします。
多少、調査官に強く言われることもありますが、別段怖がることはありません。
そのあとは、税理士がついていれば、税務署との折衝を引き取ってくれますので、社長や社員の調査対応は終わりです。
修正申告ではなく、指導事項として求められた点については、次回に同じ指摘をされないように、社内で改善の対応を取っておいていただけばよいです。
あとは、修正申告の内容に納得していれば、もともと払うはずだった税金を、(銀行より高い)利子(延滞税)や加算税をつけて、後払いするだけです。
お金で解決するのだから、追加の納税額だけは早めに税理士なり税務署なりに確認し、支払いの予定を立てておきましょう。
新人調査官の養成のための調査もある
単に、過去1回も調査に入っておらず、繰越欠損金がちょうどなくなった(修正申告でかならず追加の税金が取れる)という理由で調査が入ることも多いです。
別に、社長の会社が怪しいから入る、と決まっているわけではありません。
むしろ、ちゃんとしているから入る、ということさえあります。定期的に調査があることも。
昔は、「優良申告法人」と表彰された記念品を置いている会社も見かけました。
そういうところでは、若い調査官が連れられてきて、実地研修、OJTという性格の調査もあります。
ふつうの会社の領収書はこのように整備され、このように上司の承認を受け、このような帳簿があるものだ。
そういう「ふつう」を、調査官に学ばせつつ、調査する場合です。
ふつうを知っているから、ふつうじゃないときに気づけるようになるのです。
ふつうとはいえない税務調査は
税務調査で、嘘はいけません。
では、調査官は、どのように嘘をついたと認定するのでしょうか。
2日目や、最終日に、書類を見せられて、サインを求められることがあります。
その書類には、自分が質問に回答したことが書かれているかもしれません。
回答したとおりのことが書かれているから、サインする。ということでいいか。
自分に質問されるということは、相手はそれについて知らないということだから、自分がうまいこと言い逃れることができれば、バレないのではないか。
そのように考えてはダメです。
サインを求められる時点で、ふつうではない段階に入っています。
調査官は、じつは答えを知っているにもかかわらず、質問をするということがあります。
その回答内容が万一事実を曲げている場合、その書面にサインをするということは、自分が嘘をついた証拠を作成してしまうことになります。
そうすると、嘘をついて、隠そうとしたということで、重加算税が課されるリスクが高まります。
書面が自分の言ったとおりか、ではなく、自分の回答が事実を曲げていなかったか、書面の内容が事実と違っていないか、という点で文章を確認しましょう。
これにサインをしたらまずいな、と思ったら、「ここが違うので」と指摘し、後日、正確なところを確認して回答する旨を伝え、その場でサインをしないほうがよいでしょう。
そこまで切羽詰まった状況でなくても、調査官の質問に答える際、記憶があいまいなときは、即答しなくてもいいので、「ちゃんと調べて回答します」というようにしましょう。
意図せず嘘をついてしまわないように。
編集後記
確定申告の仕事をしつつ、夜は研修へ。また、いきつけのゲームセンターにも。