節税したつもり?の短期前払費用

会社を経営していて、法人住民税7万円ほどを払うだけなので、「うちは節税できている」と感じていないでしょうか。

税金は、ざっくり純資産の増加(出資以外の原因)に対してかかります。
法人税がかかっていないということは、純資産が増えていないのです。

お金が減っているのだから、税金がかからないのが当たり前。
とくべつな節税をしているから税金が減った、と考えないほうがよいです。

その道は、お金が増える道か?(馬洗川せせらぎ緑道)

お金が出ていく短期前払費用

短期の前払費用を経費にする「節税策」を提案されたことはないでしょうか?

当期にすでに利用開始しているサービスに対して、契約にもとづき年払いをしておくことで、来年の分の費用を今年の費用に取り込める。

だから節税になる……という触れ込みですが、その分お金が減っているのですから、税金も減るのは当たり前です。

会社のお金は、減らさずに済むなら、減らさない方がよい、と私は考えています。

特に、「最近、会社からお金を返してもらっていないな」とお感じの方は、お金が出ていく節税をしすぎていると思われます。
貸借対照表の3期比較をしてみて、「負債の部:役員借入金」の額が変わっていない、または、増えている場合は、要注意です。

仮にいま、法人税を払っていなくても、いずれ社長の相続税として取り返されるリスクもあります。
役員借入金=会社に対する貸付金として、社長の個人の財産になっているからです。

重要性の原則に違反していないかチェック

短期前払費用とした金額が、その後の経常利益に対して大きすぎる場合は、のちのち税務調査で問題になる可能性があります。

利益のほとんどを消し飛ばすような短期前払費用の使い方は、この処理が認める根拠である「重要性の原則」(企業会計原則注解 注1)に違反しているからです。

毎年同じくらい購入する文房具は、いちいち貯蔵品(資産)に計上しないで、払った金額を消耗品費にしていいですよ(利益が毎年大きく変動しないので)。
これが、重要性の原則の適用例です。

毎年同額の地代家賃も、短期前払費用の適用初年度だけ利益が減るものの、翌年度以降は利益を変動させませんので、事務負担の軽い方を選んでよいのです。

これらに対して、その費用を計上することで、あったはずの利益が0に、ひいては法人税も0になるような取引は、重要性が乏しいとは言えません。
会計の世界では、通常、利益に対する割合が大きいかどうかで、その取引の重要性を判断します。

さらに、金額だけでなく、工場や店舗などの販売・製造、管理・運営といった、事業の根幹にかかわる費用かどうかも判断に影響します。

節税したくなる利益が出たら、融資の申し込みを検討

短期前払費用を検討したくなる利益が出たことは、すばらしいことです。

会社が黒字ということは、上場企業を含めたすべての法人の中で、上位39%に入っていることになります。
全法人の61%が赤字なのですから。

令和5年度分「会社標本調査」調査結果について(令和7年4月)

そんな貴重な黒字法人を運営されているのですから、利益の出た決算書を持って、金融機関に融資の申し込みをするのが正解です。

払った法人税の金額以上に、今後の運転資金や設備資金が借りられる可能性があります。
結果、お金が出ていく節税をしたときよりも、会社の手持ち資金は増えます。

事業はいいときばかりではないので、預金残高があれば、時間を買うことができます。

節税として、不良債権の貸倒れを着実に行う、不良在庫の廃棄を行うなど、いまのお金が出ていかないものをやったうえで、法人税を払いましょう。

こういった、不良資産を一時的な損失に変え、資産を換金可能な額だけ計上することは、金融機関からの信頼を得ることにもつながり、一石二鳥です。

他にも、期末までに役務提供や納品を受けていて、支払が翌期になっている未払費用の計上もしているでしょうか。
これも、お金が出ていないのに費用になるものの一つです。

節税は、短期前払費用のようなテクニックからではなく、資産の適正化・未払費用の計上など、正しい経理を行うことから始めましょう。

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