法人化・節税、というキーワードはありがちです。
が、法人成りの節税に、過度の期待は禁物です。
今回は、法人化と役員報酬との関係を掘り下げていきます。

個人のときの手取りをあきらめられるか
「個人の税率より、法人の税率のほうが低いから節税になる」と、まことしやかにささやかれます。
この場合の節税とは、個人と法人、両方合わせて、手取りを最大化するという意味です。
いちおうお話しすると、節税効果が最も高くなるのは、法人の実効税率(税額/課税標準)と、個人の実効税率とが同程度になったときです。
実効税率には、所得税・法人税だけでなく、地方税(住民税・事業税)も含めます。
ただ、ご存じのように法人(中小企業)の実効税率は低いです。
この低い法人の実効税率に、個人の実効税率を合わせようとすると、個人の所得になる役員報酬は、個人のときの利益=「事業所得」に比べて、かなり下げざるを得なくなります。
つまり、社長個人としては、毎月の手取り額は、個人のフリーランスのときより少なくなるのです。
「今月お金がないから、役員報酬を今月だけ増やそう」と思っても、税金のことを考えたらできない、というだけではありません。
節税を優先すると、額面からして下げざるを得なくなります。
生活費を考慮したときに、それで大丈夫でしょうか。
個人のときの手取りをあきらめない場合
「じゃあ、その節税の最大化はあきらめて、個人のときの手取り並みの役員報酬を設定しよう」と考えるかもしれません。
すると、今度は社会保険料が増え始め、節税額をあっという間に相殺してしまうのです。
「節税はできたが、節社会保険料はできない」という状態になり、得した感はそがれます。
もちろん、厚生年金加入により将来の年金は増えますが、いまの個人としての「お金が入ってきている感」は減ります。
つまりどういうことか。
役員報酬を下げても生活に困らないほど、個人時代に貯蓄ができていた人が、法人化による節税効果を最大化することができるのです。
(手取りが減っても、貯金を取り崩せばよいので)
節税の原則の一つ、「お金がないと節税はできない」は、ここにもあてはまります。
私は、節税の優先度は下げ、生活費が賄える程度の役員報酬を取ることをおすすめしています。
(銀行の融資を受ける際にも重要な観点です)
節税策を組み合わせる
したがって、私は、いわゆる税率の差による節税策だけでは、限界があると考えています。
いろいろな方策を合わせて行う必要があります。
個人で借りている住宅を、法人と大家さんとの契約に切り替えて、法人が社長に一定の低い金額で貸す方法。
社長の家賃負担が下がった分、役員報酬を下げても、個人の生活は大丈夫ということになります。
また、個人でかけていた生命保険を法人契約に切り替える。
個人のときは経費にならなかった健康診断費用を、法人で払って経費にする。
法人にたまった利益を、5年以上社長をやったあとに、退職金で受け取る。
などなど……。
廃業までの、長い期間で損得を考える必要があります。
そもそも競争が激しく、廃業のリスクが高いビジネスの場合、法人設立費用・税理士報酬など、法人特有の追加投資を、節税メリットで回収できずに終わってしまうこともありえます。
法人化でぜったいに得するわけではありません。損することもあるのです。
法人化による節税の本当の意味は
個人であれ、法人であれ、やっていることは同じ。
投資の回収をしているのです。
個人では、利益を上げるほど税率が高くなるので、翌年の再投資に回せる「税引後当期純利益」が少なくなってしまう。
これに対して法人では、利益に応じて多少税率は高くなるものの、個人ほどではないため、「税引後当期純利益」が減りにくくなります。
結果、翌年度の再投資額を増やすことができるのです。
法人による節税効果とは、この再投資額を増加させる効果のことです。
それにより、法人のフリーランスは、個人のフリーランスよりビジネス上、有利に展開できるという意味です。
法人化は、個人と法人とを合わせた手取り(税引き後利益)を最大化できる可能性があるものです。
「個人のキャッシュフローを最大化するという意味の節税ではない」と考えていただければ、がっかりしないと思います。
法人化で増えた再投資額の、有効な使い道を考えていきましょう。
前向きな投資で、法人を黒字でなるべく長く存続させることが、節税よりも大事なことなので。
近況報告
顧問先とメールしつつ、小冊子の発信・料金表部分をリニューアル中。あとは最近買ったビジネス書を読む。
また1冊、Amazonから届きました。
夕食時は、普段家では飲まないのですが、「横浜みなと博物館 柳原良平アートミュージアム」に行った影響でトリスクラシックをいただきました。おいしかったです。
1日1新:自宅でトリスクラシックのハイボールづくり

1980年生まれ。木村将秀税理士事務所・代表。主にフリーランスやNPO法人のサポートをしている。自分で経理・申告したい/顧問税理士をつけたい/記帳代行を依頼したい に対応。特技はウォーキング(最長は戸塚~小田原間 45km 14時間)、趣味はジャズ喫茶巡り・村上春樹の本・SNK対戦型格闘ゲーム。プロフィール詳細