「引当金」の役割は「これが利益と思ってもらっては困る」と伝えること

引当金を使わない理由

簿記や会計・財務諸表論を勉強すると、評価損・減損損失・〇〇引当金といった、費用を積み増しするものをたくさん習いますが、実際には使っていないという人も多いと思います。

なぜ、習ったのに使わないか。

それは、その損益計算書を、税務署以外の他人に見せていないからだと思います。

会計は、コミュニケーションのための道具です。なのに、その決算書を他人への「伝達」に使わないなら、「引当金」などの多様なワードを使って説得しようとする必要がありません。

引当金を使うべき理由

引当金には、本来、どんな説得力があるのでしょうか。

引当金を計上しなければ、その分利益は大きくなります。

しかし、経営者としては、「この利益が、本当にそのまま利益と他人に思われては困る」というときがあるのです。

ここで他人とは、主に、他の役員や同僚・部下といった「その利益の中からお給料をもらう人たち」です。

「こういった人たちに決算書を見せない」と決めているならいいのですが、見せて決算書の数字で説得すべきときもあると思います。

その場合、決算時に支出もせず仕入れもしていないものについて、通常は費用を計上できません。

「利益を取っておく必要がある」と伝える効果

でも、社長の頭の中で、「この利益は将来のために取っておきたいんだよな……いまここで、増益だからって賃上げ要求をのんだら、将来のあの支払ができなくなる。なんて従業員に伝えたらいいんだろう……」との考えが渦巻いていたとします。

そこで登場するのが「引当金」なのです。今は支出もせず仕入れもしていない、将来の費用を先取りして、決算書の見た目の利益を減らすことができます。

「ほら、利益出てないでしょ? 何でかというと、〇年後にこれを払わなきゃいけないの。そのための利益を、この繰入額で取っておいてるの。だから賃上げはこのくらいで我慢してね」

こういうメッセージは、引当金でしか伝えることができないものです。

損益計算書は英語で、Profit and Loss Statement。ステートメント、「意見」なのです。説得力のある決算書をつくるために、引当金の活用を検討してみてはと思います。