私は、20代で結婚して、小さい子どもがいた時期に、住んでいたアパートの大家さんから立ち退いてほしいと言われたことがあります。(いまは別の家が建っています)
そのときは、敷金だけ全額返還してもらって立ち退いたのですが、振り返って考えてみると、「引越費用を補うものとして、立退料がもらえたのではないか?」と思わないでもありません。
立退料をもらうことは、個人の純資産を増やすはたらきをするので、原則として税金に関係します。
これは何でもそうですが、「立退料」という単語があれば、すべて同じ取扱いになるのではありません。
立退料の実態に応じて、考えることになります。
自宅の立退料は、いつの所得になるか
居住用アパートの立退料であれば、通常、全額が一時所得となります。
この場合、立退料が500,000円以下であれば、所得税はかかりません。
申告してもいいですが、所得税・消費税の額に影響は出ません。したがって、申告しなくてもかまいません。
もし、立退料から引越費用などの経費を引いた残りが500,000円超であれば、実際に入金された年の収入金額として申告します。
立ち退きというサービスを提供して、お金をもらったわけではありません。対価性がないということです。
ただもらっただけのものは、例外的に現金主義でOKです。
対価性のない寄附金も、現金主義で寄附金控除(法人なら費用)に入れるのと対照的になっています。
この場合の引越費用は生活費なので、一時所得の経費(その収入を得るために支出した金額)にはならないのでは? と思うかもしれませんが、「国税不服審判所 昭和54年6月29日裁決」によると、引越費用も経費と判断されています。
引っ越さないと、もらえない収入。こういう関係にあれば、引越費用は収入からマイナスできるということです。
これは、次の事業用賃貸物件を立ち退くときにも引越費用がマイナスできるので、バランスもとれていると言えます。
店舗の立退料は、いつ、いくらの所得になるか
事務所なり店舗なりを賃貸していて、建物が取り壊されるということになると、立退料は1千万円台の金額となることもあります。
個人事業主の方が多額の立退料をもらった場合、どのように考えればいいでしょうか。
通常、一時所得になるときと同様、入金した年の事業所得の収入金額になります。
立退料をもらった年だけ所得が増え、税金が増えると予想されるでしょうが、まるまる課税されるわけではありません。
一般的に、退去するまで立退料は支払われませんので、通常は入金年のうちに、店舗移転費用も発生するはずです。
また、その間営業できませんので、営業利益が減少するでしょう。
こういった、立退料収入から引ける経費や損失もあるからです。
立退料は多額なので、受取りにあたっては契約書なり合意書を交わしてるのがふつうです。
その文書で、店舗の移転にかかる費用・休業中の減益は、この立退料収入で賄うべきものとされている場合
- 立退料は、事業所得の収入金額に
- 移転費用等は、事業所得の必要経費に
となるため、所得の激増はある程度抑えられます。
ただ、移転先の店舗で、高額な内部造作等の工事費用の支出をしたため、貸借対照表上の資産となり、支出額がそのまま経費にならないものもあるでしょう。
その分、納税は支出額のわりに増えることになります。
例外的なケースは
立退料をもらって廃業したら
多額の立退料をもらって、そのお金で老後を過ごすから廃業してしまったという場合は、その立退料は一時所得となる場合もありえます。
退去後の事業再開が未定であった場合も同様です。(平成24年3月21日裁決)
立退料で賄うべき移転費用・営業損失が、事業をやめてしまったため、生じない場合です。
立退料をもらった年と移転した年が違ったら
また、引越費用が出せない場合には、立退料の一部前渡しということもあるようです。
先ほどもお話ししたように、ふつうは、収入年と引越年は同一になるはずです。
が、もし、年内に一部の立退料を受け取り、引越が翌年になってしまったらどうするか。
このあたりは、立退料の合意書なり契約書なりの内容によります。
大家さんの立場で考えれば、「立退料だけ取られて、居座られたらいやだな」と思うでしょう。
大家さんが損しないように、前渡しの条件として、合意書に「移転が実際に行われるまでは、前渡しした立退料の返還を求めることができる」となっていたら、いちがいに入金時の収入金額とはいえません。
賃借人の立場では、引越を終えるまでは、その収入は確定したものとはいえないからです。
賃借人が、契約上やるべきこと(ここでは退去)をやり終えた年に、収入を得る権利が確定したと考えます。(無条件請求権説)
「そういう契約があった」という前提でいうと、賃借人は、預り金・前受金として、損益計算書ではなく、貸借対照表(負債の部)で翌年に繰り越します。
そして、実際に引越しした年の立退料収入金額とし、引越費用と両建てにして、収入金額だけに課税がされないようにするのが合理的と考えられます。
この場合でも、立退料の用途が引越費用として特定されているため、事業所得の収入金額になります。
使途が特定されない立退料は、一時所得になる可能性があります。
借家権の売買とされていたら
その他、例外的に、立退料の性質が、第三者間で売買可能な借家権の譲渡代金という部分があれば、譲渡所得になるケースもあります。
ひとくちに「立退料」といっても、その税金のかかり方は、家主・賃借人の間でどのような合意があったかによりますので、書面で確認しておくことが必要です。
編集後記
昨日の夕食はモスバーガー(新とびきりアボカド、おしるこ)。じつは私は、全国100店舗以上のモスバーガーを訪問したことがある、モスマニアです。