物価上昇局面では棚卸資産の評価方法の変更検討を

好きな勘定科目は棚卸資産の、税理士の木村です。

棚卸資産。これが分かると、会計や税金のことの理解が深まるので、知っておいてほしい知識です。

棚卸資産がたくさんありそうなお店

棚卸資産の基礎知識

棚卸資産とは、買ったけどまだ売れていない商品、まだ使っていない物品のことです。

まず、商品と貯蔵品の区別。商品は売る予定のもので、貯蔵品は消費する予定のものです。

普段、現金・預金のやり取りばかりで、貸借対照表には「普通預金」くらいしかないと、なじみにくいのが棚卸資産です。

現預金との違いは、カネなのか、モノなのか、という違いだけです。棚卸資産は、モノを金額(数量×単価)で表したものです。

お金は、単価がすべて1円なので、モノの数を考える必要がなかったというだけです。

貸借対照表の「普通預金」には、「通帳」なり「残高証明書」なりのお金の期末残高と一致する金額を載せますよね。

「棚卸資産」も、商品などモノの期末残高を載せる場所です。それは、実際のお金の額ではなくて、商品や貯蔵品を買ったときの金額をベースに計算します。

売るためのものを買ってきたとき、お金を払ったときに、その全額を売上原価(損益計算書の費用)にしてしまうと、費用が多くなりすぎてしまいます。

そこで、お金を払ったが、まだ売れていないものについて、経費にしないために、貸借対照表の棚卸資産(商品)に載せるのです。

単純に考えると、「商品を仕入れたときに払った金額で載せればいいのかな」と思ってしまいますが、ちょっと違います。

何もしていなければ「最終仕入原価法」が評価方法

NPO法人が収益事業を始めたとき、また、個人や会社が事業を始めたときに、特に税務署に届出書を出していなければ、あなたは「最終仕入原価法」という方法で貸借対照表に載せることに決まっています。

期末の商品の種類ごとに、在庫の数を数えて(棚卸といいます)、それに、種類ごとの最後に買ったときの金額をかければ、モノの金額が求まります。

これを、損益計算書の期末商品棚卸高に入力し、同額を、貸借対照表の商品に入力します。

反対にいうと、こうやって処理して、貸借対照表に載せた金額以外は、経費(損益計算書の売上原価)になっているのです。

2024年現在、この最終仕入原価法で「期末商品棚卸高」と「商品」の金額を計算していると、ある問題が出てきます。

昨今のような、物価上昇局面、インフレにあっては、仕入れ代金も徐々に値上がりしています。

すると、在庫を全部、直近に買った金額で貸借対照表に載せたということは、代金を払ったうち、いちばん高い金額を、経費にしなかったことになります。

経費が少なくなったということです。裏を返すと、実態よりも利益が多くなっているのです。

実態からずれた決算書というのは、外部から見られることを考えると、好ましくありません。

銀行から借入があるとか、公的機関に決算書を見せる必要があるという場合、その決算書は、できるだけ会計基準にのっとって作成する必要があります。

適正な利益と財産の額を計算するためです。

企業会計原則や、企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、最終仕入原価法による計算を、原則として認めていません。

中小企業向けの「中小企業の会計に関する基本要領」では、この、何も届出をしていない企業の計算方法を尊重して、最終仕入原価法も認めてはいます。

ただ、もともと物価上昇局面では、最終仕入原価法は、適正な利益の計算の妨げになる方法なのです。

棚卸資産の評価方法を会計も税務も変更しよう

そこで、この計算方法(棚卸資産の評価方法といいます)の変更を検討してみてはどうでしょうか。

いま、最終仕入原価法で計算しなければならなくなっている会社でも、事業(非営利法人の収益事業も含む)を開始してから3年以上経過していれば、この計算方法を変更することができます。

値上げが多い時期にあっては、「総平均法」に変更すれば、貸借対照表の商品の額がより適正に計算され、利益が多くなりすぎることを防止することができます。

注意点は、経理をするうえで、決算をするうえで「総平均法」に変更することは自由ですが、それだけだと、税金の計算上だけ「最終仕入原価法」で計算する必要が出てきてしまい、非常にムダが出てきます。

そこで、会計ソフト上だけでなく、税金の計算上も「総平均法」で計算することができるように、税務署に届出を出す必要があります。

「変更しようとする理由(できるだけ具体的に記載します。)」という欄がありますが、最終仕入原価法から変更する場合には、「対銀行(対行政・対会員など)のため、適正な期間損益計算を行うため」といった理由でよいでしょう。

繰り返しになりますが、創業から3年以上経っているかが重要です。

もし、棚卸資産の評価方法を頻繁に変更できると、前期比較が難しくなり、決算書の利用者にとって不便だからです。

実態に合った計算を行うことが、対外的にも、税金的にもベストです。

編集後記

子どもを小児科へ。診察後の事務処理が超高速で感動しました!(すぐに帰れる) お医者さんもペンタブレットを使っていたり。