個人企業の法人成り、役員報酬をいくらにするか

いまは個人事業主だけど、将来法人成りする。その場合に、役員報酬(社長の給料)をいくらにするかは、普遍的なテーマです。

所得税がお得なもの、社会保険料が低いもの、法人税とのトータルで最も低いもの……といった考え方があります。

それが間違いというわけではありません。でも、個人事業主の法人成りに関しては、もっと考えなければならないことがあります。

個人企業を法人にしても、実質は変わらない

ここでいう個人企業の法人成りとは、社長一人が100%の株式を持つオーナー会社のことを指します。

個人が法人になるというときに、「役員報酬をいくらにしよう?」と思ってしまうこと自体、法人という形式にとらわれているのではないでしょうか。

形式が個人から法人に変わったとしても、実質は、個人事業から変わっていないと考えてみましょう。

個人事業で利益を上げる目的は何だったでしょうか? まずは、生活費を稼ぐため、だったはずです。

そのうち、生活費を超える利益が上がるようになって、その分は個人の貯金になっていきました。だから法人化を考えた。

それ自体はまともな発想です。でも、そういう事業が法人成りした場合、変わるのは次の点だけです。

「生活費を超える利益を上げた場合、その分は、会社の貯金になる」。

もうけ・利益というのは、生活費として消費するか、貯金するしかありません。

その消費できる力、貯蓄できる力に、税金がかかってくる。これが本質です。

法人にしても、本質はまったく変わりません。

法人における生活費とは何でしょうか? それが、役員報酬の額なのです。

だから、「役員報酬をいくらにすべき?」と聞かれたら、私が答えるのは「役員報酬で生活費を払ったらトントンくらいになるようにしましょう。個人のときも、法人のときも、ビジネスとして、最低でも生活費は稼ぎ出す必要があるからです」。

生活費を下回る役員報酬にすることのリスク

税金や社会保険料がもったいないから、数万円の役員報酬にする、という声もあります。

でも、税金や社会保険料の金額、そんなに大事な数字でしょうか?

私は、それより、生活費のほうが、自分に関係があると思います。それが稼げなければ、個人も法人も関係ないからです。

生活費にもならない役員報酬を取っていると、次のようなリスクがあります。

  • 会社から給料をもらっても、生活費に足りないので、会社からお金を借りるようになる
  • それで会社が利息を取るために、会社の利益が増えてしまう
  • 生活費が足りないので、会社のお金で飲み食いしてしまう
  • それを税務調査で指摘されて、自分の所得税も、会社の法人税も割り増しになってしまう
  • 会社をたたむとき、退職金を出そうとしても、所得税も法人税も割安になる金額の上限が頭打ちになってしまう

なので、原則として、法人成りして最初の役員報酬は、ご自分の生活費を賄う金額にすることをご提案しています。

それでも少額の役員報酬にすべき場合

例外的に、役員報酬を8万円程度(社会保険の加入を維持)の少額にすべき場合もあります。

  • 法人(会社)に一時的に多額の赤字が生じた
  • キャッシュを穴埋めするために、個人から法人にお金を貸している
  • その後は黒字見込みであり、その赤字を翌年以降にぶつけて相殺できる場合です。

というのは、会社の赤字は10年間しか繰り越せないので、黒字が出るうちに使い切ってしまうべきものだからです。

そのときは、役員報酬を下げて、会社のもうけを増やしても、法人税はほとんどかかりません。

また、会社にお金が貯まるので、会社に貸していたお金(会社から見れば「役員借入金」です)をどんどん返してもらうことができます。

貸したお金が返ってきても、個人(社長)に税金はかからないので、個人の所得税も抑えられます。

この時以外は、役員報酬の額は、まずは最低限の生活費の額をおすすめしています。もうかってきたら、役員報酬を上げていけばいいのです。

編集後記

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