宅地建物取引士もののお仕事マンガ『正直不動産』13巻~14巻所収の「原野商法」。
主人公長瀬の同僚・月下さんの祖父が、かつて原野を購入して、その購入名簿から、再度だまされそうになる、というピンチを描いた回です。
(いまは特殊詐欺ですが、昔は「消防署のほうから来た詐欺(消火器を売る)」とか、原野商法とかで、いらないものを売りつける詐欺が多かったですね)
そこで、詐欺を行う不動産業者が「要は、節税対策なんですよ。他の土地を購入すれば節税になるんです。」と説明する場面があります。
そんなこと、あるのでしょうか。詐欺師の説明ではありますが。
事業用の資産を買い替えたときの特例のこと?
たしかに、不動産を売ったことに対してかかる所得税の大半を、あと送りする特例はあります。
特定居住用財産の買換・交換の特例がありますが、原野商法では住んでいないですよね。
考えられるとすれば、事業用の資産を買い替えたときの特例といいます(一部は税金がかかります)。
でもこれは、事業用の土地を売ったときだけに使える特例です。原野商法で買った土地を放置していたら、使えないですね。
買い換える土地も、事業用に使わないといけません。具体的は、事業所などの敷地として、利益が出る地代で貸し出す予定があるとかですね。
まあこれは、マンガの中の悪徳不動産会社が騙しにかかっているというところなのでしょう。
また、土地の買換えの場合は、面積に制限があるなど、さまざまな規制があります。
特に、土地の東京一極集中を避ける目的があるので、地方の土地を売ったお金で首都圏の土地を買う場合には、税金をあと送りできる金額が減る場合があります。
2024年4月以降に事業用資産を売った場合は届出が必要に
ちなみに、この特例には最近ルール改正があり、少し厳しくなっています。
2024年の4月以降に買い換えた場合は、確定申告とは別に、「特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出書」を提出しておく必要があります。
2024年4月から6月までに事業用資産を売った場合は、8月末までに届け出る必要があります。(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月の四半期に区切って、四半期末から2カ月以内)
これは個人の所得税(譲渡所得)用の書式ですが、法人が同様のことを行った場合も、届出書の提出が必要です。
この届出書は、あるていど具体的な買換え計画を作成していないと作れませんので、ご注意願います。
特に出し忘れは厳禁です。特例が使えなくなってしまいますので。高額な不動産売買を行う場合は、事前の税理士へのご相談をおすすめします。
若干気になるマンガ中の言い回し(わかるのでOKですが)
ところで、マンガの中の業者が「「要は、節税対策なんですよ」といいますが、「節税対策」という言葉、ずっと違和感があります。
単に「節税」、「節税策」や「税金対策」でいいのではないかと。警察署も「防犯対策」というけれど、これも微妙。
まあ、聞いてるほうはわかりますから、そう言っていただいてかまいませんけどね。
あと、月下さんが言う「節税対策で新たな土地を買う? 土地の売却益を申請して納税したほうが確実に安いはずですが?」の「売却益を申請」。
「申請」より「申告」と言ったほうが正しいです。これも会話中に、税理士なら訂正はしません。わかりますので。
でも「税金の申請」とおっしゃる方はとても多いです。会社員・公務員の方だと確定申告で還付されることが多いので、補助金の申請と似たイメージなのでしょうね。
これを読んだ方は、せっかくなので「申告」と呼ぶように変えてみていただければと思います。
昨日読んだ本
『刑事弁護人のための隠語・俗語・実務用語辞典 第2版』(下村忠利、現代人文社、2023)…単純に面白い。特に「ロケットランチャー」の項目があるのが……。あと索引に「ルフィー」があるのに、実際の項目がないですよ!