街のインボイス対応から学んでみよう

コンビニの事例

街を歩いていると、コンビニの入口に、こんなシールが貼ってあるのを見かけます。

  • 「インボイス対象店」
  • 「インボイス対象外店」

対象店は分かります。インボイスが出せるんですね。ここで買えば、経費精算する場合も安心です。

一方、対象外店。

「そんなのアリなの? コンビニなら、売上1000万円超ないとやっていけないんじゃないの?」

これは、アリです。

もしインボイス対象店になると、売上が1000万円以下でも消費税を納税しないといけません。

しかし、原則的には、開業から2年程度は、消費税を納税しなくてよいのです。今期の売上が1000万円超あったとしても。

ちなみにこのインボイス対象外店、オープンしたばかりで、まだ2年経っていません。

そこで、事業者としては、試算してみて、次の不等式が成立したら、「インボイス対象外店」を選択すべきです(見込み額にはなりますが)。

対象外店になることで減少する利益額 < 対象店になることで納税する消費税額

コンビニの立地が住宅地で、事業者の買い物が少ない(売上減少見込みが少ない)と予想したのであれば、インボイス登録しないという判断も、アリです。

たとえビジネス利用があったとしても、買い手が免税事業者・2割特例・簡易課税だったりして、そもそもインボイスがいらない会社であるケースも多いでしょうし。

中堅~大企業にお勤めの方が業務で買ったとしても、3年間は、払った消費税の80%は認められるので、そこまでの悪影響はない。コンビニで買うような金額のものですしね。

この経過措置の3年間と、本来免税事業者でOKな2年間がかぶるのであれば、インボイスに登録しないという選択も、合理的といえます。

カフェチェーンの事例

とある大手喫茶店チェーン。レシートに、「法人名」が必ず載っています。

フランチャイズだと、べつに、その看板の名前の会社が直営しているわけではないので、地場の会社さんが経営主体ですね。

いままで、フランチャイズを運営している法人の社名を知る手段はなかったのですが、インボイス制度が始まって、突然、「ああ! このカフェ、あそこにある会社なんだ!」と急に親しみがわいてきたりします。

Tで始まる登録番号を、インボイス公表サイトに入力すれば、社名と本店所在地が分かりますからね。

実は、インボイスに正式な社名をいれるかどうかは、任意です。店名、屋号でもOK。もちろん、登録番号を調べればわかるんですけど。

そして、正式な社名・法人名を入れたほうが、事業者のお客さんに対しては、親切です。

会計ソフトで、番号から社名を自動で引っ張ってくる機能があった場合、レシートに社名がないと、その引っ張ってきた社名が正しいのかどうか、その場で分からないですからね。

取引先マスタを管理している会社にとっては、いままで、チェーンの名前で登録していたものが、登録番号ごとに何社にも分かれることになり、大変なので。

インボイス対応、よそのやり方も横目で見ながら、経過措置の6年間(50%控除できる期間も含む)かけて、慣れていけばよいのだと思います。


【今日やめたこと】…最近、新しいことを始めることが多いので、やめたかった習慣をやめてみました。「新しい本を買ったら古い本が本棚から押し出されるイメージ」を、個人的に大切にしています。

インボイス後の価格交渉のポイント

売上の約2%を納めるのが、インボイス制度開始当初の「初めての方にやさしい」消費税です。(2026年分の確定申告までの期間限定な「やさしさ」の予定ですが……)

インボイス制度の開始当初は、いままで消費税を税務署に納めていなかった方に対しては、ショックを和らげようという配慮がされています。

しかし、そんな配慮がされていたとしても、いままで納めなくてよかった消費税を納めることになるので、当然、追加の負担ということになります。

税込売上(収入額)の約2%を納める以上、手取りは減る

ということは、手取りをいままでと同じにしたければ、お客様に税込金額の約2%の値上げを受け入れてもらうか、同額の経費を下げるか、生活水準を下げるかしなければならないことになります。

インボイスに登録せず、免税事業者のまま税込価格を据え置けば、手取りはいままでと同じになるので、これができればベスト。

しかし、そうはいかないということもあるでしょう。

約2%の値上げ(厳密には1.85%ほど)、可能でしょうか。

それが不可能なら、経費(人を雇っていれば人件費、いなければ生活水準)を下げるか。

「インボイスで廃業しなければいけない」という声があるのは、こういった対策がとれなければ(インボイス登録したのに価格が据え置きならば)、手取りが減ってしまうからです。

振込手数料買い手負担で実質値上げも

2%の値上げ要求が難しければ、入金時に差し引かれている振込手数料を、お客様負担にするとお願いしてみるのも手です(もちろん、これも立場上難しいでしょうが)。

33,000円の代金入金につき、660円引かれていたのが引かれなくなれば、2%値上げしたのと同じ効果があります。

最近は「今後は振込手数料を買い手負担でお願いします」という文書もよく見かけることろです。

もともとは、振込手数料分売り手負担に返還インボイスが必要(改正でいらなくなりました)という話があり、そのきっかけで買い手負担に転換する話が出始めていたのですが。

税制の改正に乗っかって、自分のやりたかったことの交渉をする、というしたたかさも発揮したいところです。

大企業にとっては登録事業者に支払う110万円も、免税事業者に支払う100万円も、同じコスト(2029年10月から)

買い手が大企業の場合、インボイスのない仕入れは、消費税を一部引けないので、今は一部引けない分の値引き交渉をしてくることが多いですが。

インボイス開始7年目(2029年10月1日~)からは、「やさしさ」が撤廃されるので、消費税が全部引けなくなります。

大企業は税抜経理をしていますので、インボイスをもらえれば、110万円支払っても、10万円は消費税が引けるので、コストは100万円と認識します。

インボイスがもらえなければ、100万円支払ったときにコストが同額の100万円になるのです。

なので、「登録したら110万円払うけど、しないと100万円だよ」というオファーもありえます。

大企業の経営成績は税抜金額で判断されるので、買い手にとってはどっちでも同じことなのです。

売り手としては、インボイス登録に乗っかって10%高い報酬を得られれば、その10%全額を納税するわけではありませんので、手取りが純増になる可能性もあります。

なんにでも消費税がかかるわけではない

個人事業主の方は、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」で申告書を作れます。

2割特例を受ける方については、次の確定申告から、このコーナーで、消費税の申告書も作れるようになります。

売上や雑収入、自家消費の合計額を入力するだけで、自動的に消費税を計算してくれるのです。

所得税の確定申告ができる方でしたら、大きな事務負担なく、消費税の申告・納税ができることになります。

雑収入を全部入力したら消費税を納めすぎるかも

しかし、気をつけないと、消費税を納めすぎてしまう場合があるので、注意です。

消費税は、自分の売上にかかる税金です。

でも、収入の中には、売上ではないものがあるのです。

源泉徴収票をもらっているお給料は、売上ではないので、入力しません。入力すると、納めてなくてもいい消費税を納めてしまうことになります!

納めすぎていても、税務署からは、教えてくれないことが多いと思います。

もらっただけの収入、社会貢献系の売上に消費税はかかりません

箱貸し料金を前金でもらっていたが、公演がキャンセルになり、前金を返金しなかった場合の、キャンセル料収入。ライブハウスを貸していませんね。

人材派遣会社が、派遣先の要請で休業した際に派遣先からもらった収入。派遣してませんね。

収入はありますが、お客さんに「何もしてあげていない」ので、その「ただもらっただけの収入」には消費税がかかりません。補助金などもそうですね。(不課税取引といいます)

そのほか、健康保険が使える医療の提供・医薬品販売を行った場合の報酬、住居を貸した場合の家賃収入は、社会貢献度が高いので、売上ですが、消費税がかかりません。

お金を貸して利息をもらった場合、アパートを貸して家賃をもらった場合、土地を売った場合、社会保険診療の報酬をもらった場合も同様です。(非課税取引といいます)

これらは、契約書や請求書があっても、そこに「消費税」と表示されていないと思います。

これら、消費税がかからない収入は、その性質に応じて集計し、「確定申告書等作成コーナー」の↑画面で、「うち〇〇取引」に入力し、消費税がかかる取引(課税取引)から差し引きます。

残った課税取引の売上金額(物販やサービス提供)をもとに、消費税が計算されることになります。

消費税の2割特例は有利な制度だが、原則課税のほうがよい場合もある

2割特例は、初めて消費税を納めるほとんどの事業者の方に有利な方法ですが、例外もあります。

それが、原則的な方法(原則課税)です。

原則的な方法では、消費税は、自分の売上の約10%から、他人の売上(自分の経費の一部)の約10%を引いた額を納税します。

消費税の税率が10%なのに、約10%というのは、税込の売上金額÷1.1(税抜売上)×10%=消費税額 だからです。

税込金額を1.1で割って税抜に戻し、税抜金額に10%をかけて税額を出します(軽減税率なら1.08で割って、8%をかけます)。

他人の売上を引くことができるのは、他人の売上にかかる消費税は、その他人が納税するので、自分が納税する必要がないからです。

自分の売上を他人の売上(経費)が超える場合は、2割特例は不利とも言えるが…

自分の経費のうち、「他人の売上になるもの」というのがポイントです。

従業員にお給料を支払っても、それは、従業員にとっては売上ではないので、引くことができません。

減価償却費もそうです。自分の資産の価値を切り分けて経費にしているだけであり、その費用を計上したときには、他人の売上になっていないので、引くことができません。

(反対に、その資産を買った年は、他人の売上になっているので、その代金の消費税分を一気に引けます!)

じゃあ、自分の売上よりも他人の売上のほうが大きい年はどうなるか?

自分の売上の約10%-他人の売上(自分の経費の一部)の約10%=マイナス の場合は、そのマイナスの消費税が還付されます。

一方、2割特例や簡易課税では、還付されることはありません。

有利なのは、税額だけであることに注意!

「今年創業したばかりで売上がなく、設備投資で出ていくばかり」という年は、2割特例よりも、この原則課税で申告したほうが、税負担が減る場合もあります。

ただし、支払先からインボイス(登録番号Txxx…の表示がある)がもらえることが前提です。

事務負担や申告にかかるコストはアップしますので、要注意です!

「そんなに手間をかけるなら、やっぱり2割特例をぱぱっとやって、時間を節約した方がいい」という判断も、もちろん「あり」です。

インボイスに登録して、消費税を納めるってどういうこと?

消費税は、消費者として買い物するときに、値札の金額に消費税分を上乗せして払った記憶がある。

レシートにも、消費税がいくら、と載っている。

だから払っているんだけれども、今回インボイスを機に、自分が事業主として、反対に消費税をもらって、納める立場(課税事業者)になる。

それってどういうこと?

はじめて消費税を納める方は、売上の約2%を納税する(2割特例)

消費税とは、売上にかかる税金です。

今回はじめて消費税を納める方は、収入の約2%(1.82%)を納税することになります。

税率は10%なのに納税が約2%でいいのは、はじめて消費税を納める方は、消費税額(税抜価格の10%)の2割を納めればよい、という特例があるからです。

売上の10%をそのまま納める必要はありません。

この「はじめての消費税」緩和措置は、2026年9月までの期間限定の予定です(「2割特例」といいます)。

赤字でも納める消費税 どうやって納税する?

所得税は、売上から経費を引いた残りにかかる税金なので、赤字なら納税の心配はありません。

一方、消費税は、収入自体に税金がかかるので、赤字でも納めるケースが多いです。

赤字でも収入があるので、その収入の一部を「なかったもの」と考えて別に取っておき、それを納めるというイメージです。

消費税は、こういう性質があるので、滞納が多いのです。

消費税の滞納を防ぐにはどうするか

はじめて消費税を納める方は、負担が新たに生じるので、インボイスに登録したことをきっかけに、納税分(1.82%)を値上げできればベストです。

ただ、その分収入が増えてしまいます。

収入が増えたからといってうれしくなって使ってしまうと、いざ、納税のタイミングでお金がないことになります。

そのため、この税金分は、なかったものとして、別の口座に貯金しておくことをおすすめします。

とはいえ、これが新たな負担となりますので、もし、インボイス登録したのち、税込代金をいままでどおりとしたら、この納税額分、手取りが減ることになります。

消費税分を単に価格に上乗せ(転嫁)したら、需要は減る

手取りを減らさないようにするには、この約2%を値上げするか、コスト削減する必要があります。

約2%を値上げしても、納税があるので、商品1個あたりの利益が増えるわけではありません。

一瞬、収入が増えた気がしますけど、それは後で納税する分なので、別の口座に移しておくなどの対応をされてもいいのかなと思います。消費税分を使ってしまって滞納する人が多いのです。

商品1個あたりの利益が変わらないなら、会社への影響はないのかな? と思いがちですが、特に小売・卸売業では、税込金額が上がれば需要は下がり、販売数量の減少を通じて利益が下がる可能性があります。ご注意を。