法律の世界にあこがれていたが、そうでない世界と変わらないとも思う

以前、税理士業界と違うところにいたときは、税金の世界は、法律があって、ちゃんとそのとおりに実行されてていいなあーと思っていました。

もちろん、どの業界にもルールがあり、内規があるわけですが、やはり実行不能な規定というのは、空文化してしまうものです。

その空文化しているルールが何となく、嫌だなあと思っていて(若かったからですが)、税法の支配する業界にあこがれていたのです(隣の芝生は青い、ですね)。

インボイスと電子帳簿保存法の今後は

さて、インボイスと電子帳簿保存法ですが。

インボイスは、2023年10月から始まって、次々に出てくる国税庁の新たな見解に翻弄されている方もいるのではないかと思います。

電子帳簿保存法の、Amazon領収書などのデータ保存は、まもなく、2024年1月から義務化されます。これも、国税庁から実際の取り扱いについて、文書が出ていますね。

インボイスについて、国税庁は何が言いたいのかというと、「インボイス登録番号のある課税事業者から仕入れさえすれば、OKですよ」ということですね。

もらったインボイスに不備があっても、ありとあらゆる方法で挽回が可能です。ということは、税務調査で記載事項の不備について修正を迫られるということは、考えにくい。税額に影響のない、指導にとどまると考えます。

さまざまな経過措置のある6年間に、日本型インボイス制度(本来のインボイス制度とは、だいぶ違うものです)に慣れて、定着していけば、問題は小さくなっていくと予測しています。

中小事業者における電子帳簿保存法(電子取引データの保存)についても、調査に支障さえなければ、青色申告承認の取り消しなどということは起こらないでしょう。

調査でケンカ・対人戦になったら、どちらも別ですけども。

法律だろうと内規だろうと、実行不能な条文は空文化していくもの

インボイス保存と電子取引データの保存の義務化を、中小の事業者が完璧に行う時間も人手もありませんし、税務署から見ても、その義務をちゃんと果たしているか、調査しきることは相当難しいでしょう。

なので、次々に取り扱いを緩和するような情報が出てきて、法律が空文化していっているわけです。

法律の世界でも、契約の世界でも、同じことです。実行不能な規定は空文化していきます。

修正履歴がわかる会計システムなどを使用する(優良電子帳簿というやつです)。

紙だろうがデータだろうが、資料をぱっと取り出せるようにしておく。

これらは、中小企業を経営していく上でも、不正を防ぐために必要なことです。それさえできていれば、インボイス・電子帳簿時代の税務調査も、必要以上に恐れる必要はないと考えます。

無理のない制度対応をしていきましょう。

「税務に重要性の原則はない」は本当か

インボイスQ&A、すごいですね。消費税法基本通達の改正があったので、基通の番号が、インボイス通達から基通のものに置き換えられています。

国税局の方々のご苦労を推し量ってしまいます。いろんな問い合わせが来て、法律に反しないように回答を作って……。

通達の番号を置き換えているときなんか、「私はこんなことをするために国税庁に入ったんじゃない!」と心の中で叫んでいたんじゃないかと……。

インボイス、罪が深いです。優秀な税務官僚が退職しないか余計な心配をしてしまいます。

インボイスには重要性の原則がありそう

で、「税務に重要性の原則はない」、または「重要性の基準値は存在しない」(by『独立する公認会計士のための税理士実務100の心得』森智幸、中央経済社より)とよく言われますが、ことインボイスに関しては、「ある」と国税庁自らが述べています。

ETCのインボイスは、1社1回だけダウンロードすればよい、というあれですね。

その1回って、もしかして、万一、税務調査で指摘されたら、そのときにダウンロード、という意味で、でも、指摘したのに一瞬で解決されたら、指摘する側の立場というか、説得力が弱まるので、そんなこと指摘しないというか……。

ETC以外で考えてみましょう。

通帳に、「東京電力」の名義で引き落としがあって、それが、電気代でない可能性、または、電気代であったとして、東京電力が登録事業者でない可能性って、それぞれ何%でしょうか……?

もちろん、インボイスの保存は、法定の要件です。保存してくださいね。ですが、こういうのは、後回しでいいんじゃないでしょうか……?

事実認定の問題として、インボイス以外の間接証拠で、登録事業者からの課税仕入れと推定されるものは。

「じゃあそんな法律、なんのためにあるの?」。課税の適正化のため(ケンカになったときの武器にするため)ですね。ケンカする予定、ありますか?

検証可能性があればよい

そもそも、登録番号Txxxx…を検索したとして、出てきた法人名が、インボイスに載ってなくて(屋号、店名)、でも電話番号が書いてあって、電話して、法人名を確認できる可能性があれば、よい、と国税庁が言ってるんですから。

納税者の側も、まずはそのくらいの温度で、インボイス対応を始めてみてはいかがでしょうか。経過措置の6年間のうちに、慣れてスムーズにいくようになるはずです。

いわゆる偽造インボイスについて

ところで、「適格請求書類似書類等の交付の禁止」というルールがあって、いわゆる偽インボイスを発行すると、罰則があります(1年以下の懲役か、50万円以下の罰金)。

記載内容に不備があって、うちのインボイスが偽インボイスとして認定されてしまうんじゃないかとご心配の登録事業者の方。

登録事業者であれば、罰則はありません。

このルール、「適格請求書(インボイス)発行事業者以外の者は…交付…してはならない。」という条文ですから。インボイスを発行できる登録事業者の方が罰せられることはありません。ご安心を。

会計システムの取引先マスタにインボイス登録番号を入力するのは義務ではない

会計システムによっては、取引先マスタを持っていて、仕訳入力時に購入先を選択することができます。

そのマスタに、インボイスの登録番号を入れられるようになっていますが、これ、まじめに運用しようとすると、無理があります。

フランチャイズの問題

システムの運用を始めると、早々にフランチャイズ問題にぶつかるでしょう。

レシートから登録番号を転記しようとすると、取引先マスタがこんな感じになります。いかにもめんどくさそう。

  • ファミリーマート(A社) T1111…
  • ファミリーマート(B社) T2222…
  • ファミリーマート(C社) T3333…

それでいて、苦労してマスタに登録しても、その後は、またレシートの登録番号なり運営法人名を確認しないと、取引先を選べませんので、マスタが役に立ちません。

しないで済むことは、しないで済ませよう

もちろん、こんな、手間ばかりかかることはやる必要はありません。

簡易課税・2割特例の方は当然やらなくていいのですが、一般課税で還付を受けたい人でも、ここまでやる必要はないです。

インボイスは、保存が義務なのであって、登録番号を会計ソフトに入力することが義務なのではありません。

「私がこの登録番号を確認した! だから、仕訳は『インボイスあり』の処理をするよ! インボイスは保存したよ!」

これでいいのです。

取引先マスタに登録番号を入力するのは、取引金額の大きい取引先に限定してもよいと思います。

コンビニで買った商品に含まれる消費税額は小さなものです。大きい金額を間違えないことが大切です。

インボイス対応の仕事が増えたきっかけで、経理業務を減らそう

インボイスの仕事が増えた! とげんなりすることはありません。

「仕事が増えた!から、これ、やめていいですか?」と上司に聞いてみてはいかがでしょうか。

特に、前任者から引き継いだが、上司や税理士がチェックしていないのに作成している書類は、やめるべきです。例えば、紙の伝票や現金出納帳(小口現金取引が少ない場合)です。

インボイスは、「登録事業者からの仕入れを、いままでどおりの課税仕入れにする」という本筋さえ間違えなければよい、と考えて、業務を進めていただければと思います。